長年看護師として働いてきた母は 2024年,勤めていた病院を退職して専業主婦になった.
仕事一筋で生きてきた人が定年退職すると 途端に生きがいが無くなって燃え尽き症候群のようになってしまう,認知症を発症する人もいる・・・という話を聞いたことがあったので内心とても心配していたのだが,我が母上においてそのような心配はまったくもって杞憂だった.
仕事を辞めた母はある日突然 庭に穴を掘り始めた.自分で一から畑を作るつもりだと言う.
毎日暑い中朝から暗くなるまでスコップで地面を掘り返し,石ころや昔誰かが投げ捨てた陶器の欠片や謎のビニールゴミを丁寧に取り除いてゆく.土を耕しふかふかにしたところに レンガや木材で囲いを作って,あっというまに小さな畑を作り上げてしまった.
そこにナス オクラ 枝豆 ピーマンの苗を植え,夏から秋にかけてたくさんの作物が収穫できた.
母はほかにも カーブスという女性向けフィットネスジムに通い始めた.颯爽と出かけてゆき 筋トレして帰宅するとプロテインを飲んで少し休む.その後は畑の世話をしたり手の込んだ料理を作ったりドラマを観て過ごす.
わたしが物心ついたときには母はもう仕事に復帰していたので,こんなふうに平日の明るい時間に母が家にいるというのはわたしにとっても初めての経験だった.
2024年の夏はわたしが体調を大きく崩し,実家に戻ってほとんど寝たきりのような生活していたときで,その時期は随分と母に甘えてしまっていた.
一緒に畑に植える苗を見に行ったり 平日昼間からカフェに行ったり図書館に連れて行ってもらったりして,もう大人なのに夏休みを過ごしているような不思議な気持ちだった
家に居ても好きなことをして楽しそうに過ごしている母を見るのは 安心したし幸せな気持ちになれた.
年が明けるころにはわたしの身体も随分回復して 日常生活を送れるようになっていた.
母も就職活動を始め,今度は病院ではなく障害を持つ人たちが暮らす施設の看護師としてパートで働き始めた.
母もわたしもひとところでじっとしていられない性格なので,この2024年の夏はなんだかとても珍しい 貴重な数か月間だったように思う.
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