母は精神科の閉鎖病棟に入れられ、ベッドに手足を縛られていた。苦しくて手をバタバタさせてしまうらしく、手首に紐の痕がついて、痛々しかった。
次女が母のところに毎日、様子を見に行っている。
病院の中は暗く、頭に治療で何かを被っている人がいて、何となく陰鬱な感じがする。この病院に入るだけでどっとつかれそうだ。
私は毎日、父のところと、二日に一度は、母のところにもお見舞いに行った。
父の手術当日、私は一人で病室で手術の無事を祈りながら待っていた。
私が不安そうに待っていたら、看護師さんがメロンパンを渡してくれた。両親共に入院している私に同情してくれたんだろう。とてもうれしかった。その時、食べたメロンパンは温かい味がした。
手術は予定よりも時間が過ぎていた。
「お父さん、大丈夫かな?いつになったら終わるんだろう。」と不安でいっぱいだった。
妹二人がやってきてまだ、手術が終わってないことを伝えた。三人で不安の中、待っていて、妹たちがいて心強かった。
手術が無事に終わり、父の寝ている姿を見るとみんなで安堵した。父が無事で本当によかった。母も元に戻るだろう。
しかし、母の容態は変わらず、まだ、意識が混沌としている。医者から、かかりつけのK病院に転院したらどうかと言われて、転院することになった。
救急車で母と私を運んでくれた。K病院に転院してから、母に合う薬があり、少しずつ元の意識が戻ってきた。アイスなら食べられるので、毎日、バニラアイスを食べていた。
父は手術後、二日目から医者から歩いていいと言われて、驚いた。父は嫌がり、ベッドで寝てばかりいた。医者に
「歩かないとダメだ!!」と強く注意されてから、ようやく私と歩くようになった。父の容態はどんどん良くなっていった。
母も以前の意識を取り戻しリハビリをしていた。ずっと寝ていたので、足腰が弱くなってしまったためだ。
母には、父が心臓の手術をしたことは医者がいいと言うまでは言えない状態だった。ついに、伝える時がきて、医者もその場にいてくれた。
母は「父の心臓の手術のことを忘れていた。どうして忘れていたんだろう。」と言った。
現実に受け入れられない時、人間は忘れるように出来ているのかと少し、納得した。
父と母が電話でやっと、お互いに話が出来るようになった。
父が「大丈夫か?」と声を掛けて、母が「元気になったよ。お父さんは大丈夫?と声を掛けあう。二人の姿に涙が出そうになった。
妹たちと父と母を支えることが出来て、よかったと心の底から思った。
この一件から、家族がこの世で一番、大切に思えるようになった。
by nezuy
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