
ゲームは人生だ、と誰かが言った。
そんなオタクに向けたのか、或いは彼ら彼女らへの皮肉なのか、
『 Game is Life 』というシミュレーションゲームが大流行している。
かく言う自分もそのプレイヤーの一人だ。
ソフト・本体・コントローラは一体型で、
一度作ったセーブデータを削除する事が出来ない仕様。
つまり、高ステータスを狙うリセマラや乱数調整も行えない鬼畜難易度となっている。
もしRTAをしたいなら、渡されたカードでひたすらゴリ押すしかなさそうだ。
まだ一度もクリア出来ていないけど。
――そもそも、これにクリアの概念はあるのだろうか。
浮かんだ疑念を胸に仕舞い、コントローラを握った。
カチカチ。今日もゲームをプレイする。
何度かプレイミスをしてしまったが、まあ概ね順調なのではないだろうか。
このゲームの評判は両極端だ。
一部のプレイヤーは『神作』と評すが、
どちらかと言うと『駄作』と言われる事の方が多い。
SNSは今日も神派と駄派で論争が起きている。あまりにも不毛。
スタートの条件が違うならば、同じゲームをしているとは言い難いのに。
カチカチ。今日もゲームをプレイする。
最近はどうにも調子が悪い。
いつぞやのプレイミスが今になって響いているのだろうか。
それともステータスの関係だろうか。
大きなプレイミスはしていない筈なのに、原因不明の行き詰まり。
助けを求めて攻略サイトを開き、状況を掲示板へ書き込む。
自分の言葉は他の助けを求めるプレイヤー達の投稿に押し流されて行く。
「雑魚乙」
そんな言葉が目に入った気がして、反射的にブラウザを閉じた。
カチカチカチ。今日もゲームをプレイする。
情報収集をして分かったが、どうやら自分の主人公はステータスが中の下らしい。
弱い主人公にはサポートキャラクターが付くらしいが、それも無い。
そしてどうやらこのゲームを『駄作』と評するプレイヤーは、
自分と同じ中~下のステータスを宛がわれている事が分かった。
同じ価格で購入しているのに不平等だ。
燻り始めた不満を胸に仕舞い、またコントローラを握った。
カチカチカチカチ。今日もゲームをプレイする。
遂にバグったのか、ゲームの挙動がおかしい。
右に動かそうとすれば左に動き、ボタンが反応しない事もしばしば。
同じ症状を訴えるプレイヤーも見られるようになった。
正常にプレイ出来ているプレイヤーとの確執は深まるばかり。
誰だ、同じゲームをしているとは言い難いとか呟いたのは。
――自分か。だが、その思考は撤回しよう。
同じ対価を支払ったのならば、同じ体験が提供されるのが筋だ。
不平等なゲームを売り付けて対立させるのが目的なのではないか。
そんな怒りの声がSNSに広まっていく。
炎上は、もう目の前だ。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチ。今日もゲームをプレイする。
一つのコマンドを入力する為にボタンを連打するのは当たり前になった。
こうでもしないと動かなくなってしまったのだ。
初めはソフト・本体・コントローラの一体型という新しい売り方で話題となったが、
今ではパーツの修理にも出せないデメリットが取り沙汰されている。
『修理・交換を行う際にデータも削除される』と制作会社からも発表され、
膨大なプレイデータを捨てるか・劣悪なプレイ環境を選ぶかでまた論争。
ライト勢はとっくにこのゲームを止め、新しい流行りに乗っている。
残っているのは真剣にこのゲームへ向き合っている酔狂な者だけだ。
SNSや掲示板の投稿は怒涛の如く流れて行く。
もう、誰にも止められない。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ。
今日も ゲームを プレイ する。
本体は悲鳴を上げながら熱い息を吐き続けている。
コントローラは連打のし過ぎで更に反応が悪くなった。
プレイデータはまた行き詰まり。
もう止めろ、と誰かが言った。
止められるならとっくに止めている。
ゲームは人生だ。これをプレイする事だけが生き甲斐だ。
多過ぎる苦難を乗り越えて今日まで来たのだ。
どうしてそれを捨てられようか。
製造・販売の終了が告知された。
回収・一部返金の対応も発表された。
今日もネットはお祭り騒ぎ。
だが、そんなものは知らない。
コントローラを握り、昨日も今日も明日も明後日も明々後日もゲームをプレイする。
――――筈だったのに。
ふと、全てがどうでも良くなった。
どうしてこんなものに時間を費やしているのだろう。
祭りはとっくに終わっている。
直近のまとめサイトにすら載っておらず、『怪作』として語り継がれているだけだ。
「自分の人生をどうにかする方がよっぽど有意義だと気付けた」
「人生はゲームじゃねえんだわ」
「ハロワ通う方が楽しくて草」
評判を遡ると、そんなコメントが目に入る。
ああ、全くその通りだ。
結局自分は人生が上手く行かなくて、自棄になって、
このゲームに自身を投影させていただけなのだ。
所詮は紛い物。現実には何の影響も無く、周りには誰も居ない。
頭のコントローラを握り、コマンドを入力する。
長い引きこもり生活で鈍った肉体は、それでもゲームより滑らかに動く。
ゲーム回収の対応期間はとっくに過ぎているらしい。
ならば――
ゲームを床に置き、本体目掛けてドライバーを振り下ろす。
継ぎ接ぎだらけの本体にヒビが入る。
もう一度振り下ろす。もう一度、もう一度、もう一度。
やがて、鋭い悲鳴を上げる機械に穴が空いた。
これで良い。もう苦しまなくて済む。ようやく解放される。
本当は苦しかった。現実でもゲームでも上手く行かない人生。
リセマラも乱数調整も出来ず、渡されたカードでゴリ押すしかない人生に。
久々に清々しい気分だ。心なしか風の通りも良い。目元が寒い。
――さて、心にも空いたこの穴はどうやって埋めようか。
考える。考える。考える。
考えても考えても、とある一つの事しか浮かばない。
ならばいっそ、やってしまおうではないか。
どうせあのゲームを続けるよりはマシな生き方になるのだから。
「それでも、ゲームは人生だ」
そう呟いて、暫く使っていなかったソフトを立ち上げた。
自主制作したゲームがバズり、我が人生の要となるのはもう少し先の話。

ここまで読んで下さった皆様、ご機嫌は如何でしょうか。
キャリカク一宮駅前の利用者・チラシの裏に住む0と申します。
本記事は、ふと浮かんだフレーズから着想を得て執筆致しました。
小説の執筆スタイルは人それぞれですが、
自分は誰か一人に焦点を当てた独白式が最も書きやすいです。
逆に複数人を同時に動かすのは苦手ですから、
めっちゃ没入するタイプってことなのでしょうね。
自己陶酔?それはそう。
0にはバズれるような才能はありません。
あったとしてもやる気が出せません。
好きなことに夢中になっていた日々は去り、
今では息をするのも面倒な怠惰マンになってしまいました。
好きなことがあるのは幸せなことです。
もしあなたが夢中になっている何かがあるのなら、全力で楽しんで下さい。
人生、何があるか分かりません。楽しめる内に楽しまないと後悔します。
「後悔なんて、あるわけない」と言えるのは、それでも折れない心の支えがあるから。
あなたの心を支え、人生を彩る何かが永遠に続きますように。
それでは、ご機嫌よう。
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