昭和の音楽史を振り返ると、ある時期だけ地層が異様に豊かに膨らんでいる。
それが、キャンディーズと山口百恵が並び立った70年代後半だ。
同じ時代に存在しながら、まったく違う方向へ日本の大衆音楽を引っ張った二組である。
キャンディーズは、季節の光をそのまま歌にしたような軽やかさを持っていた。
「春一番」に象徴されるように、まだ冷たい風の中で心だけが先に春へ跳ねていく──
そんな“季節の入口の揺らぎ”を、明るいコーラスとポップなメロディで描き出した。
昭和の人々が求めていた“未来への期待”を、彼女たちは音楽で体現していた。
一方で、同じ時代に山口百恵がいた。
彼女の歌は、光ではなく影の側から世界を照らす。
恋の痛み、孤独、諦念──
少女が大人へ変わっていく過程のざらつきや重さを、静かで強い声で受け止めるように歌った。
キャンディーズが風なら、百恵は大地。
その対比が、70年代後半の音楽シーンを豊かにした。
そして、この二つの流れが交差した地層のすぐ下から、80年代という“異常に豊作な時代”が始まる。
そこに現れたのが、松田聖子と中森明菜。
まるで夜空に突然あらわれた二つの星のように、光と影の両極を同時に輝かせた“バイナリースター(二重星)”だった。
松田聖子は、キャンディーズの軽やかさをさらに洗練させ、洋楽的なコード進行と跳ねるリズムで、日本のポップスを一気に“未来”へ押し出した。
季節の光、恋の予感、都会の風──
彼女の歌は、80年代の明るい空気そのものだった。
そのすぐ隣で、中森明菜はまったく逆の方向へ進んでいく。
百恵の情念を受け継ぎながら、さらに深く、赤裸々に、女性の内面の影を歌い続けた。
夜、雨、沈黙、傷──
明菜の歌詞世界は、心の奥に沈む感情をそのまま形にしたような濃度を持っていた。
光と影。
跳ねるリズムと沈む情念。
未来へ進むポップスと、内面へ潜る歌謡曲。
本来ならどちらかが主流になり、もう片方は消えていくはずだ。
しかし昭和の80年代は、この二つが同時に頂点に立った。
松田聖子と中森明菜という二重星が、互いの存在を引き立て合いながら輝いたことで、日本の音楽史は“黄金期”と呼ばれるほどの豊かさを手に入れた。
キャンディーズと百恵が耕した地層の上に、聖子と明菜という光と影の二つの星が咲いた。
その奇跡の連続こそが、昭和ポップスの魅力であり、今もなお私たちを惹きつけてやまない理由なのだと思う。
当時は「聖子派か明菜派か」で世界が割れていた。
第三極など存在しないほど、この二人が強すぎた。
みぽりん派もいたかもしれないが、時代の地殻を動かしたのは、やはりあの二重星だった

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