日本は世界でも有数の長寿国です。医療の進歩や生活環境の向上により平均寿命は延び続けていますが、一方で「健康寿命」との差が課題となっています。健康寿命とは、介護や支援を必要とせず、自立した生活を送ることができる期間のことです。この健康寿命を縮める大きな要因の一つとして注目されているのが「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」です。

ロコモティブシンドローム(通称ロコモ)とは、骨・関節・筋肉・神経などの「運動器」の障害によって、立つ、歩くといった移動機能が低下している状態を指します。2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で、高齢者の要介護化を防ぐための重要なキーワードとして広まりました。
ロコモは決して高齢者だけの問題ではありません。加齢に伴う筋力低下(サルコペニア)や骨粗しょう症、変形性関節症などが原因になることが多いものの、近年では若年層や働き盛り世代にも予備軍が増えているといわれています。背景には、長時間のデスクワーク、スマートフォンの普及による運動不足、外出機会の減少など、現代的なライフスタイルの変化があります。
特に大きな転機となったのが、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大です。外出自粛やリモートワークの普及により、日常生活における歩行や身体活動量は大幅に減少しました。自宅で過ごす時間が増えたことで、気づかないうちに筋力やバランス能力が低下した人も少なくありません。

最近では、若い世代でも「階段の上り下りがつらい」「少し走るとすぐ息が上がる」といった声が聞かれます。これは単なる体力低下ではなく、将来的なロコモの入り口である可能性もあります。
健康意識が高まる一方で、実際の身体活動量は十分とは言えない・・・、このギャップこそが、現代のロコモ問題の特徴です。
自分がロコモかどうかを簡単に確認する方法として、「ロコモチェック」があります。たとえば、次のような項目に当てはまるものはないでしょうか。
「片脚立ちで靴下がはけない」 「家の中でつまずいたり滑ったりする」 「階段を上るのに手すりが必要である」 「15分くらい続けて歩けない」 「重い買い物袋を持ち帰るのが困難」等々・・。
これらのサインは、すでに移動機能が低下している可能性を示しています。早期に気づき、対策を講じることが、将来の要介護状態を防ぐ第一歩となります。
フレイルとの違い
近年よく耳にする言葉に「フレイル」があります。

フレイルとは、加齢に伴い心身の活力が低下した状態を指し、健康と要介護の中間段階と位置づけられます。ロコモは主に身体機能に焦点を当てた概念であり、フレイルの身体的側面と深く関連しています。
運動器の衰えは、外出機会の減少や社会的孤立を招き、結果として精神的な活力低下にもつながります。つまりロコモ対策は、単に筋力を維持するだけでなく、社会参加や生活の質を守ることにも直結しているのです。
ロコモ予防の基本は「運動」「栄養」「継続」です。
日本整形外科学会が推奨する「ロコトレ」には、主に以下のような運動があります。
「片脚立ち(バランス能力向上)」、「スクワット(下肢筋力強化)」・・・。
特別な器具は必要なく、自宅で短時間から始められるのが特徴です。重要なのは、無理をせず継続することです。
筋肉や骨を維持するためには、十分なたんぱく質とカルシウムが必要です。肉・魚・大豆製品・乳製品などをバランスよく摂取し、極端なダイエットは避けることが大切です。
エレベーターではなく階段を使う、一駅分歩く、テレビを見ながらストレッチをする・・・、こうした小さな積み重ねが将来の大きな差になります。
日本は今、超高齢社会の真っただ中にあります。医療や介護制度の充実だけでは、健康寿命の延伸は実現できません。一人ひとりが自分の身体の状態を理解し、主体的に行動することが求められています。
ロコモティブシンドロームは、ある日突然始まるものではありません。日々の生活習慣の延長線上にあります。そして同時に、日々の小さな努力によって予防できる可能性の高い問題でもあります。
「まだ若いから大丈夫」「少しぐらい動かなくても問題ない」・・・、その油断が、将来の移動能力を左右するかもしれません。
人生100年時代といわれる今、最後まで自分の足で歩き、自分らしく生活するために。ロコモ対策は、未来の自分への投資です。
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